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2007年 06月 22日
(今回は字ばっかり。さすがに写真撮る気力がなかった)
見事に崩れ落ちた廃屋を過ぎて、さらに下へと向かう。だいぶ高度が低くなり、それまで草と石と土だけだったのが木が生えるようになってきて、ちゃんとした道がまた復活した。ありがたい。 歩いていると集落が見えてきた。最初ロープウェイか何かで下まで一気におりることができるのでは?と期待したけど、電気も通っていないような本当に小さな村で、とても無理だと諦める。ここでようやく自分以外の人の姿を目にすることができた。柵を修理しているおじいさん(こちらを超怪訝そうに見てた)とバドミントンをしている女の子3人(皆笑顔が屈託なくて可愛い)。それぞれ「ボンジョールノ!」と挨拶を交わす。 集落を過ぎて、今度は緩やかな階段のようになってジグザグに下りていく道がずっと続いた。誰もいない。道の片側には木がたくさん生い茂っていて日陰を作り、さらにもう日が傾いてきているので薄暗い。ずっと歩きやすくなった道をひたすら下へ下へと向かう。人の生活圏だし、ゴールはもう近いはず。もう6時、リフトを下りた時間から考えると7時間ほど歩いている。 ところが、ここにきて猛烈な睡魔が襲ってきた。歩き続けた疲れか、時差のせいか、高度によるものなのか判別はつかないけど、暴力的な眠気が押し寄せてくる。ほんの少しだけ休もうと道端の石に腰掛けると、もう目を開けていられない。でももしここで眠ってしまって、目が覚めた時に日が完全に落ちていたら。こんな訳のわからないところで完全な暗闇に囲まれた時の恐怖を想像したら……。頭ではわかっているのに、体が言うことを聞いてくれない。必死に我慢しても気がつくとほんの僅かな間うたたねして、夢まで見ていて、ふっと我に返ってまずいまずいとまた歩き出す。でも疲れて足がもつれ、近くの石に腰掛けてしまう。これを何度か繰り返した。眠ってしまった時間は多分それぞれ1~2分ぐらいのものだと思うけど、我ながら危険すぎ。 いつになったら下に着くんだろう、本当にこの道でいいんだろうか、さっき会った人たちに呑気に挨拶なんかしてる場合じゃなかった……と不安を抱えて足取りも重く進むうち、また集落が見えてきた。やっぱり人影は見えないなあと思いながらなおも歩いていると、おじさん発見!逃すかー!それはもう鬼気迫る勢いで捕まえて、メルゴーシャ村に行くにはこの道でいいのかたずねた。 おじさんは、いかにもイタリアっぽいハゲ&小太り(直球ですいません)という姿にランニング、膝丈のパンツ、おまけに酒臭く、なんかもうすっかり駄目なおっちゃんという雰囲気。帰国後「ローマの休日」をたまたま見ていたら、あまりにもそっくりなおじさんが名もない役で出ていた。この人。ギルモア氏のように名前をつけようとしてみたけど、おっちゃん以外呼びようがないので、以後おっちゃんで。 当然ながらおっちゃんは英語が話せなかった。イタリア語かドイツ語は話せるかと聞かれた。もうどこ行ってもこればっか。あんぷー・ふらんせーず、フランス語をちょっとだけ……というとうんうん頷いていたけど、おっちゃんが話せるフランス語も私並っぽかった(つまりごく少々)。こうなりゃ気合とボディランゲージしかない。でもともかく私が道がわからず困ってることはわかってくれた。どうやらメルゴーシャ村はこの先で合っているらしい。で、ロカルノに帰りたい!と言うと、顔を曇らせてブスがなんとかかんとかと言ってる。ブス=bus=バス?え、ノーブス?もうバスがない?帰れないから、メルゴーシャにホテルがあるから、泊まれと言ってる。そんなのってあり? うまく話がまとまらないまま、ともかくおっちゃんが先に立って案内をしてくれるようなので着いていった。そしたらおっちゃん、歩くの速っ!まるで跳ぶようにひょいひょいと結構な角度の下り道を駆け下りていく。イメージ的には絶対サンダルが相応しいと思われる足元には、履き慣れまくった靴。そうだよね、日常生活をここで過ごしてるんだもんね……。はっきりいって疲れきった私には拷問のようなスピード。でもせっかく親切に案内してくれてるおっちゃんを待たせる訳にはいかないので、もう文字通り最後の力を振り絞って必死に後を追った。おっちゃん、大きな段差がある時には振り返ってこちらを気にかけ、時には手を貸してくれた。顔に似合わず(失礼な)ジェントルマンだ。 怒涛の下りをしばらく続け、もうすぐメルゴーシャというところまでやってきた。するとおっちゃんは振り向いて私に携帯を差し出した。え?どうしろと?ペールがなんとか、テレフォンがなんとかと言っている。むむむ……。その他理解できる単語のはしばしを拾って想像力を最大限に働かせるに、どうやらおっちゃんは私をハイキング中に家族とはぐれた子供かなんかと思い込み、ここでお父さん(père)に電話してメルゴーシャ村まで迎えにきてもらえと言っているらしい。おっちゃん色々と間違えてるよ!私はtouristで、ひとりで、ロカルノのホテルに泊まってるからそこに帰りたいんだということを必死に説明する。するとやっぱりメルゴーシャに泊まって朝のバスで帰るしかないと。タクシーは?と聞いても駄目だと言う。理由も説明してたけどさっぱりわからなかった。めちゃくちゃ高いのか、メルゴーシャにはタクシーがいないのか?そして「あとはヒッチハイクしかない」などと、さらっと仰る……。ひ、ひっちはいくですかぁ……。 それでも、人が住んでいる、ホテルもあるちゃんとした街にもうすぐ着くことは確か。おっちゃんがここまで連れてきてくれたおかげだった。お礼を言ってお別れすることに。色々と心配してくれたおっちゃんは最後にはにっこり笑い、「頑張って」というようなこと(多分)を言って例のスイス式ほっぺにちゅー挨拶をしてくれた。握手してグラーチェ!と何度も繰り返す。そして彼はチャオ!と言い残して上へと戻っていった。もうほんとおっちゃん、ありがとうありがとう。 さて再び一人になって、下へと進む。しばらくすると石の道になり、民家が現れた。あ、車がある。屋根にはアンテナが。当然電気も通ってる。文明の香りって素敵だ……としみじみ。しかしさっきまでの土の道と違って、石畳は相当足にくるのでゆっくりとしか歩けない。下りながら、本当にメルゴーシャに泊まろうかどうしようかと考えていた。お金は持ってきているから問題ないし、素泊まりにして朝早いバスで帰ればロカルノのホテルの朝食に間に合うだろうし……(発想が庶民)。すると、とうとう地上に到着。ようやく、ようやくたどりついた。下り坂の終点は偶然郵便局前、つまりポストバスの発着所だった。 駄目もとでバスの時間だけでも確認しようとしていたら地元のおじさんが通りかかった。早速近づいていって、ロカルノ行きのバスはもうないですか?と聞いてみる。この人は英語話せた。おじさんは最初難しい顔をしてから、いや確認してみよう、と停留所へ。タイムテーブルを見て最終が19:22だよ、と教えてくれる。ん、19:22?今の時間はと腕時計を見ると…… 19:14 …………間に合った!バスに間に合ったよー!おっちゃんありがとう、アナタは命の恩人です!(感涙)
by yukie905
| 2007-06-22 02:58
| SWISS trip
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